
私たちについて
設立趣意
日本における文化財や文化遺産、そして地中に埋もれている「埋蔵文化財」(遺跡・遺構・遺物)は、国や地方自治体によって数多く指定・登録、認知されています。その数量は世界でも類を見ないほどと言えます。これら文化財や文化遺産と言われるものは、果たして誰のために、何のために残され、保存されているのでしょうか。この根源的な問いには取り組むべき様々な課題を紐付けすることが可能です。
その一つに、文化財・文化遺産や書籍、学問的成果などその他あらゆる知的な情報を文化資源として位置づけ、学習や教育のための学術情報基盤強化に資するという方向性を挙げることができます。
「文化資源立国」と文化資源戦略会議
(https://bunkasigen.wordpress.com/2014/11/14/20140517-aoyagi-keynote/http://archivesj.net/)
元文化庁長官の青柳正規氏は、「文化資源立国」を目指す立場から、日本における文化資源活用に関わる課題について整理しています。課題の一つに次の例を挙げています。「日本は知的なものを制度化し、構造化するということを、明治以来ずっとやってきているのだけれど、まだどこか穴があいている所がある、ということをつくづく思いました。我が国の文化資源の情報化ということについて、多くの方が必要性を唱えているけれども、なかなか国全体の政策として進んでいません。これは、ある意味では、我が国の知的なものの構造化、制度化というものに、まだ脆弱な所があるのではないかという気がしています」(青柳2014)。
いま私たちの社会は、これまで以上に、各人が近代における知的な枠組みをどのように乗り越えていくのかという実践的な課題に直面しています。そしてこの課題に取り組んでいくという意識があまりに欠落してしまっていると言えるのではないでしょうか。政治や経済はもとより教育や文化に至るまで西欧近代性とその後に連なるグローバリズムの思想に飲み込まれ、自分たち自身で主体的に考えることに弱点を抱えてしまい、想像力と創造性に乏しくなってしまっているとも捉えられます。文化財・文化遺産とは、はたして他者や国・行政などから指し示されて存在するものでしょうか。
このような課題を真摯に受け、解決に取り組むためには、文化財・文化遺産を知的な情報源つまり文化資源として位置付けていく過程を実践していくことが求められます。そして、なぜ文化財を残すのか、なぜ資源化するのか、という根本的な問いを目的として掲げる必要があると考えられます。この哲学的、思想史的にも重要な課題を国や行政だけに任せるのではなく、民間組織を含め私たちひとり一人が考え、関わっていくことを通じて、文化財・文化遺産を取り巻く社会とその基盤にある思想をできるだけ客観的に捉え直す好機にするべきと考えます。
文化・文化財を取り巻く社会的課題
ここで、膨大な数量にのぼる埋蔵文化財(遺跡や遺物)に焦点を絞ると、実践的で大きな課題がより明確になってきます。例えば、行政では縦割り構造による組織的な課題表出はもとより、文化財保護法に基づく業務の形骸化と崩壊、人員不足による発掘調査と報告書作成の質の低下、民間発掘調査組織においてはこれら課題が如実により色濃く表れています。また、大学をはじめとしたアカデミズムと行政、民間発掘調査組織との関係態の乖離や分断も深刻です。教育面でも考古学専攻生の減少や後継者不足、あるいは研究会や学会組織の維持存続の困難など多くの問題に直面しています。私たちは、文化財・文化遺産を含む知的情報のアーカイブ化やネットワーク化の取り組み、つまり文化を資源化していく実践的な取り組みがこれら課題の解決の第一歩になると信じています。
解決方法と法人の目的
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講演や講義など普及・教育事業によって、文化や歴史に理解や興味関心を持つ人を増やし、裾野を広げます。
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文化財・文化遺産の記録作成(アーカイブ化)の担い手としてのアーキビストや学芸員、調査員など専門職の人材育成に貢献します。
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新しい記録方法と新しいメディアの開発を目指します。デジタル3D計測技術とその可視化システムを導入することで、資料論として取り組み、大学や博物館、行政、その他多くの人々と議論を展開し、記録作成の場面での人材不足を解決するための一手段に貢献します。
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大学などアカデミズムと埋蔵文化財行政、民間発掘調査組織を横断する研究活動を展開することによって、この間の乖離を取結び、有機的な関係を築くことでより良い文化資源、学術情報基盤を構築します。
当団体は、以上の取り組みによって、文化財の保護はもとより文化資源化とそれを取り巻く問題の解決に貢献します。このような活動を行うにあたって各種契約を結ぶ必要があるので、法人格が必要となりますが、当団体は営利を目的としていないので、会社組織は似つかわしくなく、NPO法人として設立することを決意しました。
2021年 7月 7日